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2010年06月の記事一覧(3ページ中1ページ目)

「ヒートアップ」

ヒートアップ

[前回の続き]
流れの文様に思いを込めることで、海の中を流れる潮の流れがハッキリ見えた。
その潮の流れに乗ると、すごい速さで泳ぐことができて驚いた。
そして、ガメラに乗ったフック線長と鬼ごっこが始まった。

「言っとくが、オラ様を捕まえるのは大変だぞ」
線長の乗るガメラの大きな4本の足が一斉にしなったかと思うと、あっという間に50mほど先にいた。
「さぁ小僧、来い!」

(よーし、あの自信満々の線長の鼻をへし折ってやる!!)
私は何だか今までにないくらい気持ちが『ヒートアップ』していた。
おそらく、線長にいつも「小僧!」「小僧!」と言われて、いつか見返してやりたい、という気持ちがどこかにあったのだろう。
怨念に近いくらいの強い思いを右手にある流れの文様に込めた。

海の中を流れる潮の流れがハッキリ見える。線長の向かった方の潮の流れを見つけ、それに体を預けて泳ぐ。
すると、すごいスピードで滑るように泳ぐことができる。
その勢いで先を行く線長の後を追いかける。

(絶対捕まえてやる!そして、線長に一人前だと認めさせてやる!)
私の泳ぐスピードは潮の流れに乗ってどんどん上がってゆく。
線長の乗るガメラの泳ぐ速さにも負けないくらいだ。

(待てー、コラ線長!もうすぐ捕まえてやる!!)
やる気がモリモリ湧いてくる。そして、スピードも上がる。
「ため口とはいい度胸だ。しかし、オラ様が誰だか忘れたか?海賊だぞ!フック線長だぞ!七つの大海を治め、最高の秘法を手にしようとする男だぞ!そう簡単に捕まるかよ」



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「鬼ごっこ」



[前回の続き]
マンボーが口でしきりにつつく私の右手には、集合マンボーが光の玉に変えられる直前に私の右手に刻んでくれた流れの文様があった。
(そうか!!この流れの文様を使って泳げと言っているんだ)

「何だそりゃ、流れの文様?ふーん、変わったイレズミだなー」
(イレズミじゃないよ)
私の右手に刻まれた流れの文様を不思議そうに見つめるフック線長をよそに、私は右手に刻まれてある流れの文様に思いを込めた。

すると、流れの文様はその思いに反応を起こした。
目には見えない海の中を流れる潮の流れが、突如はっきりと見えるようになった。
広い海の中にある無数の潮の流れは、まるで複雑に入り乱れ交錯する道路のようにはっきり見ることができた。

その中の一つの潮の流れに体を預けて泳いでみた。
すると、海の中を滑るようなすごい勢いで泳ぐことができた。
(まるで、ウォータスライダーに乗ってるようだ!)

「ほう!すごいじゃねーか小僧。オラ様とはぐれた短期間で・・・たいしたもんだ」
線長はすごい勢いで泳ぐ私に驚いているようだった。しかし、
「よし、じゃあオラ様と勝負だ!!」
線長はそう言うと、線長のそばで休んでいたガメラに乗った。そして、私の前にやって来た。

「いいか、今からオラ様がこのガメラに乗って逃げるから、捕まえてみろ。もし、オラ様を捕まえることができたら、小僧を一人前とみなして、オラ様と共にX(エックス)の所に行くのを認めよう。
だが、オラ様を捕まえることができなかったら、小僧は小僧だ。X(エックス)の所に行くことは断じて認めない!いいな」
(わかった。じゃあ、線長逃げて、こっちが追いかけるから。さぁ、海の中の『鬼ごっこ』の開始だ!)


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「余裕をかまして」



[前回の続き]
「困ったことにどうやら、オラ様の中心海への旅は中断せざるをえないようだ」
フック線長は、X(エックス)と呼ばれる特別な変化体を持つ謎の人物が現れたことで、秘宝を探す中心海への旅をあきらめざるをえなくなり、光の玉(光の遺伝子)を憎々しげに見つめている。
「これはオラ様が預かる。小僧には荷が重い。それに小僧は己の変化体にもっと慣れなきゃいかん。この世界から現実に戻るためには、タイムリミットはもうあと306日しかない。この事に首を突っ込んでいる暇はない」

(ちょ、ちょっと待ってよ!まさか、線長は一人でXとかいうヤツの所に行こうとしてるんじゃ・・・)
「Xとかいうヤツが光の遺伝子を7つ全部そろえてこの世界をメチャクチャにする前に、オラ様がそいつに会ってかたをつけてやる!小僧はこっちのことは気にせず、現実に戻るために一刻も早く己の変化体に慣れろ」
(ダメだ!!線長一人でそんなことをしたら、きっとXに殺られる。Xは海のギャングの大ボスになるくらい強いんだ!それにカタツムリのボスを心酔させる程の特別な変化体を持っているんだ!)
「フン言ってくれるじゃねーか。だが、この事については小僧の出る幕じゃねー!」

(Xが光の遺伝子を7つ全部そろえれば、どうせこの世界はメチャクチャになっちゃうんだろう。だったら、現実に戻るとか言ってる場合じゃないと思うんだ。だから、線長といっしょにXの所に行くよ。そして、光の玉に変えられた光の遺伝子やリリーをもとに戻す。光の遺伝子はもともとマンボーたちのものなんだ。Xのじゃないんだ)
「言っていることは正しい。だが、その正しさが通用する相手とは思えん。小僧はまだ変化体にも慣れていない。そんなままで一緒に行くと言われても、ただ迷惑なだけだ」

線長のその言葉は、後ろから思いっきりバットで頭を殴られるくらいショックだった。
(は、はっきり言うね線長。じゃあ、こっちもはっきり言わせてもらうよ。線長はいつもまだ変化体に慣れてない、慣れてないって言って子ども扱いするけど、じゃあ変化体に慣れるって一体何だよ?教えてよ)
「それを教える前に聞くことがある。見たところ海の中で呼吸はできているが、オラ様が乗ってきたガメラのように、この海の中をものすごいスピードでかつ、自由に泳げるのか、己の変化体を使って?」
(そ、それは・・・)
「海の中を移動するのに、いちいちオラ様は待たんからな」

「ケンカか?やれやれ!仲間割れでもして、早いとこオレを縛っているロープを解いて、自由にしてくれ。X様に早く報告したいんだ」
カタツムリのボスは、私とフック線長の言い争いを『余裕をかまして』楽しんでいるようだ。
その時、そのボスの横をすりぬけ一匹のマンボーが泳いで私の所にやってきた。
そして、私の右手をしきりに口でつついた。
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「背負い込んで、沈み込んで」

背負い込んで、沈み込んで

[前回の続き]
カタツムリのボスの話によると、海のギャングの大ボスX(エックス)は、この世界に散らばっている光の遺伝子を全て集めて、完全で完璧な存在つまり神になると言う。
フック線長はその話をユーモアに違いないと、大いに笑った。だが、Xは何だか特別な変化体を持っているようで、その変化体を実際目の当たりにしたカタツムリのボスは、Xはいずれ神となり、この世界に革命を起こすと断言するのであった。

「光の遺伝子はこの世界に7つある。我々がその7つ全てをそろえば、X様はその特別な変化体を使って神になられる。これは、間違いのないことだ」
カタツムリのボスは真剣だ。おそらく、話していることは真実だ。
「X様がまだ誰も入ったことのない記号の集まる原野に入ったことで、光の遺伝子はどこの誰がもっているのかがわかった。それを今、我々が探している。7つ全てそろうのは、時間の問題だ」

(大変なことになってきた・・・知らないところでそんな事が進行していたなんて・・・)
この世界に来てまだ日が浅く、自分の変化体にもまだ慣れたとは言えない状況でそんな事を聞かされても、と言う思いだった。
(光の遺伝子と共に光の玉となったリリーを助けたい。しかし、一体どうしたら・・・)

「こりゃ、とんでもないことにぶち当たったかもしれんぞ」
さっきまで笑っていたフック線長の顔から笑みが消えていた。
「確かに記号の集まる原野に入った者は誰一人いない。体が記号でないと入れないからだ。
いくら自分の変化体をその思いによって変化させると言っても、記号に変化できるヤツなんて今まで聞いたこともない!
なぜなら、記号は生命ではない。生命でないものに思いを通わせることはできないからだ」

動揺するフック線長の心を刺すかのように、ボスは間を空けずに続けた。
「だから、この世界に革命が起こるのだ。生命と生命でないものを思いによってつなげることができるあの御方だからこそ、この世界を変えることができる。光の遺伝子7つ全て我々が手にした時、生命と生命でないものの境界線は崩れ去り、この世界は何か重たいものを『背負い込んで、沈み込んで』崩壊する。その時何が起こるかはあの御方以外誰にも分からない。楽しいじゃないか、ハハハハハハ」

その笑い声は、静かな海の中を不気味にこだました。
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「革命」



[前回の続き]
フック長の柔らかい銃で打ち抜かれたことで、今まで重要なことは何も話さなかったカタツムリのボスの心が柔らかくなり素直によく話すようになった。
線長の尋問は続く。

「お前のボス、つまりX(エックス)というのはこの光の玉になった光の遺伝子を集めて何をするんだ?」
線長の手には、光の遺伝子がリリーの体ごと情報となってしまった光の玉が握られている。
「何をしようが、それは我々の勝手だろうが!・・・問題はそこだ。わかるか?つまり、X様はこの世界に散らばる光の遺伝子を全て手にすることで、完全で完璧な存在となるのだ」

「完全で完璧な存在??なんだそりゃ?」
困惑する線長に、カタツムリのボスは息がかかるくらい顔を近づけて言い放つ。
「つまり、神だ!」
線長とボスそして私の間に、長い沈黙が流れる。

「ワァハハハハハハ!」
突然、線長は沈黙を破り、お腹を抱えて笑い転げた。
「かーみー?ワァハハハハハ!そいつ ハハハ、カツラでも、ハハハハ、くれてやれ、ハハハハハハ」

(線長。言っとくけど、かみというのは、髪の毛のことじゃないよ)
私が線長をとがめる様に注意すると、線長は笑うのをやめた。だが、目が笑っている。
「わかってるよ。しかし、そのXってのは面白いヤツだな。神になるって本気で言ってんのか?オラ様が思うに、そいつはかなりユーモアのあるヤツじゃないか」

カタツムリのボスはしばらく黙ったまま我々を見つめていたが、静かな語り口で言った。
「それはそうだ。お前たちの反応は正しい。だが、X様のその特別な変化体を一度でも見たら笑っていられないぞ。あの御方は間違いなくこの世界を変えるだろう。この世界に『革命』を起こし、いずれ神として頂点に立たれる方だ」
その静かな語り口には、聞いていて何だか不思議な説得力があった。

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「湯船」

湯船

[前回の続き]
フック線長の「柔らかい銃」で眉間を打ち抜かれ、大仏様のような顔になって倒れたカタツムリのボスは、撃たれてからというものピクリとも動かない。

(まさか、死んでしまったんじゃ・・・)
心配になった私は、倒れてピクリとも動かないボスの目をめくり上げて瞳孔を調べてみた。
しかし、カタツムリに瞳孔なんてなかった。
「フン、小僧は心配しすぎだ。そんなんだから、なめられるんだ。いいから、思いっきりそいつの頬っぺをひっぱたいてやれ!」

(そ、それより、さっきの銃は一体・・・)
「そうか、小僧ははじめてか・・」
そう言うと、線長はさっき懐にしまったばかりの銃を取り出した。
「これは柔らかい銃と言って、まぁ言ってみればオラ様の用心棒兼相談役みたいなもんさ。つまり、この銃で打ち抜かれたものは・・・」

「いたたたた。クソ、頭が割れるように痛いぜ」
倒れてピクリとも動かなかったボスが、突然気づいた。
(ボス!?よかった、生きてた)
「ん?お前はさっきの・・・っと言うことは」
そうやってカタツムリのボスの見上げた視線の先には、フック線長の怖い顔があった。

「気分はどうだ?さっそくだが、さっきの続きだ。お前のボス、つまり大ボスのことについて知ってる事を全部話してもらおうか」
「バカか!誰がお前なんかに・・・わかった。オレの知ってる事を全部話そう」
「そいつは一体何者だ?光の遺伝子を奪って何をしようとしているんだ?」
「オレはたとえどうなってもあの御方のことだけは絶対に喋らんぞ!・・・うん、あの御方は誰にも自分の本当の名前は教えない。身を守るためだ。我々にはX(エックス)と呼ばせている。X様は海のギャングという組織の大ボスになったのは、つい最近のことだ。その特別な変化体を自由自在に操り、何にでも変化できるんだ。それで、元の大ボスを簡単に追い出したって訳さ」

まるでさっきの事がウソのように、ボスはペラペラとよく話す。
(ボスは一体・・・)
「この銃で打ち抜かれたからだ。この銃で打ち抜かれると、心の中にある固くて、かたくななものは全て、マシュマロのように柔らかくなってしまう。だから、こういう風に話すんだ」

(・・・何だかよくわかんないんなぁ・・・)
「まぁ、そうだな、心の中がマシュマロのように柔らかくなるってのは・・・酒を飲んで酔っ払うだろう。それで『湯船』に浸かるんだ。その時のあの気持ちの柔らかくなる感じに似てるなぁ」
(あの・・・余計わかんないんだけど・・・)
「わからないなら、わからんでいい!!」
線長はムスッとしてボスの方へ顔を戻した。
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「柔らかい銃」

柔らかい銃

[前回の続き]
リリーを情報化し光の玉に変えたカタツムリのボスにいろいろ聴きたい事があった。
しかし、ボスはなかなか話そうとしない。そこへタイミングよくフック線長がやってきた。
線長は広い海の中で私を見つけるのに、さぞ苦労しただろう。だが、もとはと言えば線長がこの世界に来て間もない私に泳がせたのがいけなかったんだ。
そのために、私はマンボーになって大変な事に巻き込まれたのだ。
だから、これからは線長にもいろいろ手伝ってもらうつもりだ。

「ん?こいつがか?」
フック線長は目の前に摘み上げたカタツムリのボスを疑わしそうにジロジロと眺め回した。
「だったら何だ!あの御方に一発お見舞いしてやるだと、訂正しろ!すぐ訂正しろ、そうすれば許してやってもいいぞ」
イヤらしい笑みを浮かべて、ボスはフック線長にも大きな口をきく。

「許してやるだと!ふざけるのもいい加減にしろ!!」
摘み上げていたボスを地面に思いっきり叩きつけると、線長は懐から取り出した『柔らかい銃』をボスの口の中に突っ込んだ。

「モガモガモガ」
「マンボーたちから光の遺伝子を奪ったヤツは、お前だな!なのに何だそのふざけた態度は!?オラ様が来たからには、お前の命はオラ様次第。オラ様にウソついたり、聞かれてもないことをペラペラしゃべったりしたら、この銃で・・・ズドンだ。これからは一語一語気をつけて話せよ」
そう言うと、線長はボスの口の中からゆっくりと銃を抜いた。

「うーーー、よくもやってくれたな。オレにこんなことをして、ただで・・」
線長の脅しを、どうせハッタリだろうと思ったボスは、線長を逆に脅しにかかろうとした。だが、
「ズドン!!」

線長の構えた銃口から煙が立ちのぼっている。
その煙の先には眉間を打ち抜かれて、大仏のようになったボスが倒れていた。
「ペラペラしゃべるな。と、言ったはずだ!オラ様を、いや海賊を見誤ったな」

(せ、せ、線長!!ど、どうして本当に撃っちゃうんだよ!ボスが死んだらもうリリーは一生、光の玉の中に閉じ込められたままだ!!)
「フン、小僧は甘い!手ぬるくやるから、相手は図に乗るんだ。だが、心配するな。この銃は普通の銃とは違って、命を奪うシロモノじゃねー。まぁ、見てな」
線長はそう言うと、銃を懐にしまった。


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「急速反転」

無題2

[前回の続き]
大きな黒い影がこちらに近づいてきて、それが何であるかすぐに分かった。
「おい小僧!!無事かー?」
(フック線長!?)
フック線長はすごい勢いのまま私の目の前まで来ると、ガメラを『急速反転』させて止まった。
その水圧で私やマンボーは、木の葉のように吹き飛ばされて、海の中を舞った。

「心配してあっちこっち探し回ったぞ、ばか者!」
海中を舞っていた私を捕まえると、線長は怒った。
「小僧、こんな所で何をのんびりやっているんだ。現実に戻るタイムリミットがあることを忘れるな!あと312日経つとお前はもう現実に戻れなくなるんだぞ」

(何ものんびりしているわけじゃない!そもそも、線長がガメラに乗せずに泳げなんて言うから、こんな事になったんだ!線長が悪いんだ!!)
線長の無責任な言葉に私も腹が立った。
(線長にも責任の一端がある。ちょっとつき合ってもらうよ!)
私は線長に事の次第を手短に話した。最初、線長はあまり乗り気ではなかった。
しかし、私の熱のこもった話しぶりと、海のギャングの特別な変化体を持つという大ボスの話になってくると、だんだん顔つきが変わってきた。

「その大ボスってのは、ふざけた野郎だ!そいつにオラ様が一発大きいのをお見舞いしてやる」
線長がいまいましそうにそう言うと、
「コラ!何だそいつは?誰に断って、あの御方の悪口を言っているんだ!訂正しろ!!」
線長との話に夢中になって、すっかり忘れていたカタツムリのボスが、横から口をはさんだ。

「ん??何だ??」
線長は不思議そうにカタツムリのボスの方を見た。
(あっ、それがさっき話したカタツムリのボス。なかなか強情で、こっちの知りたいことをあまり話してくれないんだ・・・)
カタツムリのボスの細い体を縛っているロープを右手のフックで摘み上げると、船長はボスを自分の顔の前に持ってきた。


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「泣きたいのに、泣けない」

泣きたいのに、泣けない男

[前回の続き]
「やいコラ、お前!放しやがれ!!」
(・・・困ったなぁ・・・)
光の遺伝子の情報である光の玉を取りに帰ってきたカタツムリのボスを捕らえた。
そして、その細いもやしのような体を捕らえロープでグルグル巻きにして、さっそく尋問を始めた。
しかし、ボスはギャングでもない私やマンボーを甘く見て、これまで話したことしか話さない。
その光の玉を本当に欲しているのは、ボスではなく、海のギャングという組織の大ボスとのこと。
その大ボスは特別な変化体を持っていて、その変化体によってプロトコルランデブー(どんなものでも無機質な情報に変化させてしまう紙)を手に入れたのだ。

カタツムリのボスはその大ボスのことを、「あの御方」と呼んで、とても尊敬しているようだ。
そのためだろう、その大ボスのことについてもっと詳しく聞こうとすると、急に態度を硬化させて、「放せー!」とうるさいのだ。
これでは、この光の玉の中で情報として生きているリリーや集合マンボーをどうすることもできない。まして、これからのマンボーたちのことを想うと心配でならない。
本来なら、マンボーたちに後のことはまかせてフック線長の所に今すぐにでも戻りたいのだが、マンボーたちはあまりに頼りないから、私がまたやるしかない。 

(その「あの御方」という人は、一体何が目的で光の遺伝子を求めているんだ?)
「フン、貴様ごときが知る必要はない。あの御方の考えておられることは、オレの考えなど及びもつかぬ。あの御方の言うとおりすれば、全てうまくいく。」
(しかし、その結果、リリーは光の遺伝子と共に光の玉に変えられるし、一体これからマンボーたちはどうすればいいというんだ?)
「バカヤロウ!マンボーなんてあの御方の考えておられることに比べりゃ、石ころみたいなもんだ。あの御方はこの世界に現れた神様だ」

(・・・困ったぁ・・・どうもこうも、マンボーは石ころで、そのマンボーにとって大切な光の遺伝子を奪うヤツが神様か・・・ギャングの世界とはそういうものか?よくわかんないや)
「オレの話を聞いてどうだ?お前も組織の一員になりたくなったんじゃねーのか?迷う必要はねー。オレが世話してやってもいいぞ」
(あのねー・・・組織に入りたくて迷っているんじゃないの!さっきからあなたがこっちの知りたいことを喋らないからどうしようか迷ってんの!!)
「いいか、オレは何があっても一言もしゃべんねーぞ!いい加減あきらめて、放しやがれ!!」

ほとほと困り果てた。力づくで話させようと思ったけど、相手のもやしのように細い体を見るとあまりに哀れで、力を与えると体が折れそうで気が気でない。マンボーたちも頼りにならず、相変わらずボーっとしている。
その時、私は『泣きたいのに、泣けない』気持ちでいっぱいだった。
と、海の中にいたにもかかわらず、背後から大きなうねりがやってきて思わずよろけた。何事かと、その方に目をやると大きな黒い影がこちらに向かって来る。
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「チューリップ」

チューリップ

[前回の続き]
「お前ごとき、このオレの貝殻で弾き飛ばしてやるわ」
挑みかかる私を返り討ちにするため、ボスは貝殻を激しく回転させ、逆に私の方に向かってきた。
(マンボーの時と同じにするな!)
迫ってくるボスの回転する貝殻めがけて、溶岩のように熱くなった手でカウンターパンチを放つ。

「バカめ!この回転する貝殻にそんなパンチが効くものか」
(たとえどんなに早く回転するコマでも触れて大丈夫な一点がある。それはその中心なんだ)
ボスの回転する貝殻のその中心めがけて放ったカウンターパンチが、ものの見事に当たった。
ミシミシと嫌な音とともに貝殻にヒビが入り、そのヒビから貝殻が溶岩のようにドロドロと溶ける。
貝殻の回転の速度がどんどん落ちてゆく。

「お前・・・長い時をかけて作ってきた、このオレの大事な貝殻を、よくも」
(マンボーたちの光の遺伝子だって、同じじゃないか!それを・・・よくも・・リリーの体ごと・・・)
悔しいのか悲しいのか、涙があふれてきて、声が震える。

「マンボーごときとオレを同じにするな!熱っち、熱っち」
ボスは貝殻の回転を完全に停止させると、溶岩のような熱さで溶ける貝殻の中から慌てて飛び出してきた。
その姿は、貝殻の中にいつも身を隠しているせいか、ヒョロヒョロとしたもやしの様だった。
「おぼえてろよ、お前!オレをこんな目にあわせてただですむと思うなよ!」

そういい残すと、そのもやしのように細い体のどこに力があるのか、まるで弾丸のような勢いで逃げ出した。
(あっ、待て!)
追いかけようとした時にはもう遅く、その姿はどこにも見えなくなっていた。

しかし、しばらくするとボスはバツが悪そうな顔をして戻ってきた。
そして、こちらに軽く会釈をよこすと、熱く溶けてゆく貝殻の中にもう一度細い体を入れて、光の遺伝子の情報である光の玉を取り出してきた。
しかし、今度は残念ながら私に取り押さえられたのだった。

リリーが情報となってしまった光の玉を取り返すと、リリーを想って『チューリップ』の花を、私は心の中でひそかにささげた。

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