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「木の波」

木の波

「全てはここから」に飲み込まれて、現実からこの世界<ディメイション>にやって来た。
そのために記憶を失くし自分がどこの誰なのかわからなくなった。
<ディメイション>では、現実の肉体はゆっくりとではあるが変化してゆく。何になるかは誰にもわからない。


「吟遊詩人」は「風と雨にうたれる女」への熱い想いを語り始めた。
詩人は元々この森のきこりをしていた。ある日、風と雨の音の中にはじめて彼女の声を聴いたときイナズマが体を駆け抜けるのを感じた。その日以来仕事も手につかず、彼女への想いは膨らむばかり。毎日彼女への熱い想いを歌にして、風や雨に歌っているがまだその想いは届かない。ひと目彼女に会えたら死んでもいい。とまで言っている。


(自分はなぜ彼女に会えたのだろう?そして、その姿を見たのに無事なのだろう?)


「彼女には現実の世界に一人、愛する息子がいるんだ。現実から来たばかりの君の姿にそれを重ねたのかもしれないなぁ・・・。それより君、怪我は大丈夫かい?」


詩人は気遣ってくれた。その優しさに甘えたのか、体の痛みが少し強くなった気がした。


「君のその怪我の具合だと、このままここにいてもどうしようもない。いいところがあるんだ。僕が連れって行ってあげるよ」そう言うと詩人は、体をくねらせ始めた。


すると、それに呼応するかのように森の中の木々がユラリユラリと揺れて、「木の波」が起こった。


「さぁ、僕につかまって。行くぞ。」
詩人は腕をつかむと、「木の波」の中に一緒に飛び込んだ。
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