
「全てはここから」に飲み込まれて、現実からこの世界<ディメイション>にやって来た。
そのために記憶を失くし自分がどこの誰なのかわからなくなった。
<ディメイション>では、現実の肉体はゆっくりとではあるが変化してゆく。何になるかは誰にもわからない。
詩人は木から葉を一枚摘みとると、それを口にあて息を吹き込んだ。すると、プクーと膨れてボードの形になった。
詩人はその上に乗ると、
「さぁ、君も後ろに乗って。落ちないようにしっかりつかまって。」
詩人が言い終わらないうちに、木々の波が次から次にやって来てバランスをくずして危うく波に飲まれそうになった。
詩人に手伝ってもらってボードに乗りこむと、必死にしがみついた。
詩人が前かがみになって体重をかけると、ボードは波に乗って滑り出した。
ボードは上下左右からうねる木々の波の中をまるでダンスのステップを踏むように踊り進む。
(ど、どうなってんの???)
詩人が操るボードはせまりくる木々の狭い隙間をすり抜け、順調にどんどん加速して行く。
加速してゆくと、目の前にあらわれたのは視界を覆うほどの巨木のビッグウエーブだった。
(ダメだ、ぶつかる!!)
ボードはビッグウエーブにさらに加速しながら突っ込んでゆく。
「飛ぶよ!」
詩人は体を深く沈みこませたかと思うと、ビッグウエーブの手前で木のしなりと最大限の加速を爆発させ高く高くジャンプした。
ボードはすぐ下に巨木のビッグウエーブを見下ろしながら、飛んでいた。
そのときの気持ちは、「混乱の中での落ち着きと安心」という何とも言えない複雑な気持ちだった。
(もうこんなことは2度とゴメンだ)
「見えてきた!」
詩人が遠くの方を指差した。