
「全てはここから」に飲み込まれて、現実からこの世界<ディメイション>にやって来た。
そのために記憶を失くし自分がどこの誰なのかわからなくなった。
<ディメイション>では、現実の肉体はゆっくりとではあるが変化してゆく。
<ディメイション>の変化がとうとう自分の体にも起こってしまった。
水槽から出てみると、肌の色がところどころいつもと違っていた。
(詩人ーーー!!)
覚悟はしていた。
だが、実際に自分に起こった<ディメイション>の変化を目の当たりにすると、激しく動揺した。
気づかないうちに詩人を呼んでいた。
(大変だ。体が変だ。詩人、どこだよ?)
しかし、森の中は詩人を呼ぶ声が消えるとたいへん静かだった。
足元に目をやると、文字が刻まれた葉っぱが置いてあった。
[拝啓 僕は君も知っての通り、「雨と風にうたれる女」に恋してます。君が彼女に会ったと言った時から、僕は苦しかった。僕はもちろん、誰も彼女の姿を見たことがない。僕は彼女のことを君に何度も何度も、聞こう聞こうとした。しかし、それは姿を誰にも見られたくない彼女にとっては嫌なことなのではないか。このまま、君と一緒にいると意志の弱い僕はいつか君に彼女のことを聞くだろう。そうすると、この恋はよこしまなものになる気がする。それは嫌だ。僕は僕の歌で彼女を振り向かせて、そして彼女に会うんだ。どうかわかって欲しい。申し訳ない。]
(ちょ、ちょっと待ってよ・・・何も言わないで居なくなるなんて・・・)
しかし、詩人の真剣な想いは何だか非難できなかった。
誰かを好きになる。それはとても素敵なことのような気がした。
(・・・自分には出来ないな。誰かをこんなに好きになるなんて)
ふと、つぶやいていた。
(あれ?なぜ自分はこんなことを言うんだろう?この思いや考えは一体どこから?)
自分の心を不思議に思った。
しかし、自分の「心の奥に見えたもの」は、<ディメイション>に来る前の記憶がないために、何も無かった。
見えるのは、目の前にある<ディメイション>の変化の中で何かに変化してゆく体だけだった。