
「全てはここから」に飲み込まれて、現実からこの世界<ディメイション>にやって来た。
そのために記憶を失くし自分がどこの誰なのかわからなくなった。
<ディメイション>では、現実の肉体はゆっくりとではあるが変化してゆく。
自分の体が変化し、また詩人もいなくなってしばらく呆然としていたがしだいに落ち着いてきた。
そして、ここでじっとしているのも飽きてきて、この辺りを「お散歩」することにした。
森の中はとても明るく、淡いグリーンの光に包まれているみたいだ。
鳥や虫の鳴き声もどこからともなく聞こえてくる。
周りの光景に目を奪われながら、緑のじゅうたんの上を思うまま進んだ。
そして気づくと、いつの間にか<ディメイション>の変化は消えて、体は元に戻っていた。
(あー、良かった。まだ本格的な変化ではなく、一時的なものだったんだ)
少しホッとしたが、それは長くは続かなかった。
このまま<ディメイション>にいたら体はどんどん変化してゆく。このままの姿ではなくなる。
(どうしたらいいんだろう?)
このまま<ディメイション>にいるしかないのだろうか?
それとも、何か現実に戻る方法があるのか?
そもそも、自分は現実に戻りたいのだろうか?それさえわからない。
記憶が無いのもあって、考えても考えても答えは出ず、逆に混乱するだけだった。
まるで答えの無い方程式を解いているようだ。
いつの間にか森の中は段々と薄暗くなり、静けさが漂うようになっていた。
(もうそろそろ引き返そう)
と、後ろを振り向いた時
ずっと後をつけていたのだろうか少し離れた木の影に誰かが素早く隠れるのが見えた。
(だ、誰だろう???)
ドキドキして、足がガクガク震えた。が、すぐに誰かわかった。
(詩人だ!)
詩人の人の悪さを恨みながらその木に近づくと、そこには詩人ではない別の何者かが身構えていた。
またドキドキして、足がガクガク震えた。