
「全てはここから」に飲み込まれて、現実からこの世界<ディメイション>にやって来た。
そのために記憶を失くし自分がどこの誰なのかわからなくなった。
<ディメイション>では、現実の肉体はゆっくりとではあるが変化してゆく。
森の中はだんだん薄れてゆき真っ暗になったので、枯れ木を拾ってきてたき火をすることにした。
(参ったな、火が無いや)
拾ってきた枯れ木を置くとポケットの中を探ったが、出てきたのはゴミくずだった。
「ちょっと危ねーから、そこ離れな」
手足をツタで縛られ背中を向けて横になっていた「フック線長」はいつの間にか気づいていた。
そして、こちらに向き直ると口の中をモゴモゴさせチロチロとヘビの舌の様な火を出した。
火は枯れ木に燃え移り、あっという間に大きなたき火ができた。
(スゲー!!)驚いて感心していると、
「おい小僧!お前に言っといてやる」
線長は体を起こすと手足を縛っていたツタを力をこめて引きちぎり、険しい顔つきになった。
「はじめはお前が何者かわからなかったから、後をつけて様子を見ていた。だが、何のことはない。お前はただの弱虫で、臆病者だ。そんなことでは、ここ<ディメイション>では通用しない。誰かにすぐやられてしまうだろう」
突然のことにオロオロすると、線長は立ち上がり森の暗闇の中をゆっくりと一瞥した。
そして、そちらへ歩き出すと吐き捨てるように言った。
「お前は恐怖や弱さ、臆病さを意思の力で押さえることが出来ない。それは、迷いを生み決断が出来ないことだ。つまり、『アンバランス』ということだ。それは、いずれ<ディメイション>の変化となってあらわれ、お前自身を苦しめるだろう」
(ちょっと待ってよ。まだこっちに来て右も左もわからないんだ。勝手に決めないでくれよ)
「じゃあ、そのたき火を消して暗闇の中でいまからオラ様が行くところについて来れるか」
(・・・何だよ・・・急に・・)
線長は軽蔑したような笑い方をすると、森の暗闇の中に消えて行った。
何だか急に目の前のたき火のようにメラメラと怒りがこみ上げてきた。
(偉そうに言いやがって。来たくてこんな変な世界に来たわけじゃないんだぞ。もう一度線長の目を回してぶっ倒れさせてやる)
たき火を消すと、線長に気づかれないように足音を忍ばせその後を追った。