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「No One」

No One

[前回の続き]
海賊船に向かう途中、疲れてきたので休みをとった。線長は私に現実に戻りたいなら力になると言ってくれた。ただし、それにはタイムリミットがあるという。

「現実に戻るかどうかは今決めなくてもいいが、一年だ。一年以内に現実に戻るかどうか決めないと、もう二度と現実には戻れなくなる。」

(一年?)
この世界から現実に戻れることがわかって正直ホッとしたが、タイムリミットがあるというのは残念なことだった。
せっかく光の変化体になれたし、もっとこの世界にいて知りたいことがあったからだ。

「この世界に来て一年経てば、体が細胞の遺伝子レベルから変化体に入れ替わってしまう。そうすると、現実に戻るための肉体を完全に失ってしまうことになるんだ。」

(つまり、一年経てばもう二度と元の世界にも元の肉体にも戻れないと言うこと?)
(何てことだ。まさかそんなことだったとは。戻りたい。今すぐ、現実に戻りたい。)

「慌てるな。まだ今のお前には無理だ。変化体のことについて知らなさ過ぎる。それよりも、体の傷はもうそろそろ治ったんじゃないのか?」

(え?・・・)
ビックリした。血がにじむヒザの擦り傷はない。無数にあった黒ずんだ打撲の跡も消えている。触ってみても叩いてみても何ともない。

「そんなに驚くことじゃない。変化体にしてみれば朝飯前だ。ただ、思いに反応して早く治っただけのことだ。それじゃ、海賊船へまた出発といこう」
線長は広げていた海図をクルクルと丸めると、口を大きく開けてその中にしまった。そして、
「どうにかして、早く行けるといいんだがなぁー」
と言うと、私を見てニヤリとした。

何とも嫌らしい線長の含むところを察して、しかたなく(早く海賊船に行きたい)と思ってみた。
しかし、私の変化体は何の反応も示さなかった。

「小僧!うわべだけでやるからだ。『No One』誰も自分に嘘をつくことは出来ない。本当に思わないことを、思うから出来ないんだ。よく覚えておけ!」
線長は巨大なエリマキトカゲのような姿になると、ピヤァーと土煙を残して海賊船のある方へ消えた。
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