
[前回の続き]
羽の生えたブーツでフック線長に追いつけたことで、浮ついた気持ちになってしまった。
私の変化体はその気持ちに反応し浮き上がった。また線長は先に行った。
ひっかかっていた木の枝から体を離すと、再び先を目指した。
だが、先ほどのようには思うように進めなかった。
思わぬ変化体の反応に動揺したのだろう、気持ちが乱れて思うようにスピードが出ない。
やっとスピードが出てきたかと思うと、今度は急に減速し前のめりになってゴロゴロと転んだ。
(・・・難しいなぁ)
泥とホコリを払い落としながら、変化体になった自分の体をまじまじと眺めた。
自分のこの体がなんだか怖い。やっぱり、現実に戻って元の体になりたい。そう思った。
しかし、現実に戻るためにはもっとこの体を詳しく知らないと、そして使いこなさないと。
(やるしかないんだ)
気持ちを引き締めまた走り出した。自分の体に翻弄されながらも、負けない、負けてたまるかと必死で自分を鼓舞した。だんだん自分の変化体とうまく行くようになった。前に進んでゆく。
気がつくと、森の中が明るくなっていた。風の中にも潮の香りが混じっている。
(海が近い!海賊船はもうすぐだ。)
森を抜けると急に視界がひらけキラキラと輝く海が目の中に飛び込んできた。
(やったー!)
先に着いていた線長は打ち寄せる波のそばに立っていた。だが、海賊船は見当たらない。
代わりに知らない何者かがいた。それは、『BAD MAN』だった。
「おやおや?」BAD MANは近づく私を一瞥すると、ニヤリと笑った。
「お前、ここに泊めてあったオラ様の海賊船をどこにやったと聞いているんだ」
線長はBAD MANに掴みかからんばかりの勢いだ。
(・・・どうしたの、線長?)
「ここに泊めていたはずの海賊船がどこにもないんだ。オラ様のお宝が積んであったんだぞ」
「お宝というのはこういうものですか?」
BAD MANは懐から金色に輝く鎖につながれた時計を取り出した。
「き、貴様ー!それはオラ様の・・・」
「拾ったんですよ。海の底に沈めて誰にも見つからないように隠してあった海賊船の中でね」
BAD MANは取り出した金時計を線長の目の前でまた大事そうにしまった。
「今日はいい拾い物をしましたよ。なんたって誰かが落としたお宝満載の海賊船だもの。」
BAD MANはそのままその場を後にしようとした。